変形性膝関節症・半月板損傷・靱帯損傷

変形性膝関節症

変形性膝関節症変形性膝関節症は、膝関節表面の軟骨の質が低下し、長い年月をかけて少しずつすり減ることによって、歩行時に膝関節の痛みが生じる病気です。
高齢者の代表的な病気で、一度すり減った軟骨は自然に治ることはありません。通常の歩行は大丈夫でも、階段の昇り降りや正座をする時に膝が痛むなどが初期の症状で、進行すると関節の変形や痛みが徐々に悪化します。
変形性膝関節症には、「一次性変形性膝関節症」と「二次性変形性膝関節症」に分類されます。変形性股関節症と異なり、日本国内では「一次性変形性膝関節症」が多くを占めています。
「一次性変形性膝関節症」とは、病気や怪我などの明らかな原因のない関節症です。
「二次性変形性膝関節症」とは、先天異常、代謝性疾患、外傷(膝の骨折や靭帯、半月板の損傷)など、原因が明らかな関節症です。

原因

多くの要因が重なって発症する病気ですので、その発症と進行に関係する危険因子には様々なものがあります。

老化・加齢

変形性膝関節症は、主に膝の軟骨がすり減ることで発症しますが、その原因で最も一般的なのは「老化・加齢」です。膝関節の軟骨は加齢に伴って弾力を失い、再生が難しくなっていきます。このような状態で膝を使い続けていると、軟骨が徐々にすり減っていき、最終的には痛みが現れます。

肥満

「肥満」も原因の1つです。肥満の方は膝関節に負担がかかるため、軟骨がすり減りやすい状態であると言えます。

遺伝

「遺伝的要因」もあることが判明しています。両親のいずれかが変形性膝関節症であった場合には、意識して予防に努めた方が良いと言えます。また、この病気の男女比は「男性1:女性4」と言われており、圧倒的に女性が多い理由として次のような原因が考えられます。

女性ホルモン

軟骨の形成には女性ホルモン(特に「エストロゲン」)の働きが必要とされています。女性が閉経を迎えると、このエストロゲンの分泌量が極端に減少することから、変形性膝関節症になりやすくなると考えられます。

筋肉量

女性は男性に比べると大腿四頭筋など膝周囲の筋肉量が少ないため、より軟骨に負担がかかりやすく、すり減りやすい状態にあると言えます。

症状

症状
  • 立ち上がりや歩き始めに膝が痛む(初期)
  • 関節に水(関節液)が溜まり、膝が腫れる(初期)
  • 正座やしゃがみ込み、階段の昇り降りなどが困難になる(中期)
  • 膝の曲げ伸ばしがつらく、膝関節の動きが制限される(中期)
  • 歩行時に膝がカクっと折れる膝崩れや、足が地面に引っかかる(中期)
  • 膝が完全に曲がりきらない、ピンと伸びない状態が進み歩行が困難になる(末期)
  • 寝返り時など膝をねじるたびに夜間痛が起こる(末期)
  • 膝関節の変形が目立ち、O脚やX脚になる(末期)
    など

初期段階では、しばらく安静にすることで痛みは治まりますが、放っておくと徐々に悪化していきます。
進行すると関節の変形が徐々に進み、痛みが増し、関節の動く範囲の減少や歩行障害を起こします。
膝がガクガクするなど不安定な状態になると、歩くために杖などの補助具が必要になり、日常生活に支障が出るようになります。

検査と診断

年齢、症状、診察所見、レントゲン検査、MRI検査などの情報をもとに診断します。
レントゲン検査では、関節の変形や軟骨のすり減りの程度を評価します。
具体的には、関節面が不整になる、関節の隙間が狭くなる、本来はない場所に骨ができる「骨棘(こつきょく)」があるなどの所見を見ることができます。
軟骨に加えて、半月板や靭帯の損傷が疑われる場合はMRI検査をします。

治療法

治療法動作時の痛みが初期段階であれば、症状の悪化を防ぐ保存治療で対処することが可能です。
痛い部位を温めて血の流れを良くする温熱療法や、電気療法などの物理療法、筋力訓練、可動域訓練、歩行訓練を中心としたリハビリテーションによる「運動療法」などがあります。

投薬による治療法

投薬による治療法初期から中期で、痛みが悪化している段階では、消炎鎮痛剤やブロック注射、ヒアルロン酸を使った薬物治療を行います。
ヒアルロン酸の関節内注入は、すり減った軟骨を補助して骨の衝突を和らげて、動作時の痛みを防ぎます。定期的な注射により、効果の持続が期待できますが、すべての患者様が効果を実感できるわけではなく、症状がさらに悪化すれば効果が乏しくなる場合があるので注意が必要です。

手術による治療法

動作時の痛みを防ぐための根本的な治療として、脛骨の一部を切除する「高位脛骨骨切り術」や、大腿骨と脛骨が接する部分を丸ごと切除して人工関節を取りつける「人工膝関節置換手術」などがあります。
「人工膝関節置換手術」は、ほかの方法では処置できなくなった際に行われます。高い確率で痛みを取り去ることができますが、その反面、健康時と比べて可動域が狭くなるという注意点があります。

日常生活でしてはいけないこと

「急に動く」「急に止まる」動作

具体的にはサッカー、野球、テニス、ジョギング、スキーなどのスポーツは、症状が強い場合は控えましょう。また、ジョギングも体重の減少には有効ですが、膝への負担を考慮してウォーキングに切り替えた方が良いでしょう。

「膝を深く曲げる」動作

「直接床に座る」「和式トイレを使用する」「布団で眠る」といった動作です。
リビングなどで長時間過ごす場合は椅子やソファーを使用し、トイレは洋式にすることが望ましいです。
また、床布団は立ち上がり時に膝へ負担がかかりますので、ベッドの使用をおすすめしています。

「タバコ」と「お酒」

喫煙は、軟骨の材料であるコラーゲンの生成に不可欠なビタミンCを減少させます。
また、アルコールは軟骨の弾力性を低下させるので、生活習慣の見直しも大切になってきます。

半月板損傷

半月板損傷半月板は、膝の関節の中にある板状の軟骨組織で、膝関節(大腿骨と脛骨の間)でクッションとしての役割をそいています。スポーツや事故などによる膝への大きな衝撃や、長年の負荷の蓄積、加齢による変化などで半月板が傷ついた状態のことを「半月板損傷」と言います。

原因

膝は、曲げ伸ばしだけではなく、捻じりや滑りなどの動きも同時に行い滑らかに動きます。その動きを補助している半月板の負担はとても大きく、加齢とともに傷つき、すり減っていきます。さらに、スポーツ障害や事故などによる膝への大きな衝撃によって、半月板が切れたり、ひびが入ることで損傷します。
また、激しい動きだけではなく、立ち上がりなどの軽い日常動作の中で傷ついていくこともあります。

症状

症状
  • 膝に腫れがある
  • 膝が曲げづらい、伸ばしづらい
  • 膝を動かすと、ひっかかるような感覚がある
  • 膝が熱を持ち、こわばりや重い感覚がある
  • 動いた後に膝に水がたまる
  • 歩くと膝に鈍い痛みを感じる
    など

半月板損傷は痛みを伴うことが多く、多くは損傷後しばらくすると膝が腫れてきます。
痛みや腫れが治まっても、少しハードな運動を行うと痛みが出たり、運動後に関節が腫れたりする場合があります。

検査と診断

膝の症状を診察し、半月板損傷が疑われる場合はMRI検査を行います。
半月板は様々な原因によって損傷を受けるので、「縦断裂」「横断裂」「水平断裂」「変性断裂」など、断裂様式は様々です。
半月板はレントゲンには写らないため、MRI検査で正確に診断します。

治療法

半月板損傷の治療は、損傷の部位や程度、靭帯損傷の有無、不安定性の有無などにより総合的に判断されます。
軽症の場合は、まず保存療法を行います。効果が得られない場合は、手術療法が検討されます。

保存療法(手術以外の治療法)
薬物療法

薬物療法関節内へのヒアルロン酸の注射や、痛みを抑えるブロック注射などを行います。痛みを緩和させ膝を動かしやすくする効果があります。

装具治療

装具やテーピングなどでひざの補助・補強を行い、不安定となった膝の安定をサポートします。痛みを抑え、治癒を促進する目的で行います。

リハビリテーション療法

リハビリテーション療法膝に負担をかけないための筋力強化や、膝の曲げ伸ばしが制限され動かしづらくなった膝の機能を改善させることで、悪化や再発を予防します。

手術療法

膝が動かなくなるロッキング症状がある場合や、保存療法で効果が得られなかった場合は、手術療法が検討されます。
手術療法は、損傷した部分を縫い合わせる縫合術と、損傷した部分を切り取る切除術に大別されます。一般的には低侵襲(大きな傷が残らない)治療である関節鏡手術を行います。

半月板縫合術

専用の器具を用いて裂けている部位を縫い合わせて修復する手術です。半月板を残すことで膝の機能回復が期待できるため、将来的な関節変形が比較的起きにくいとされています。

半月板切除術

縫合しても回復が見込めない場合は、損傷した半月板を部分的に切除して整容的に整える手術を行います。痛みの早急な軽減が期待できますが、将来的に関節変形などが起きやすくなると言われています。

靱帯損傷

関節には、骨同士を繋いで関節を安定させている「靱帯」と呼ばれるヒモ状の組織があります。
激しい動きや転倒、事故などによって靱帯に大きな負荷がかかり、靭帯が傷める「靭帯損傷」と言います。

原因

原因靭帯損傷は、特に膝関節で起こる「膝靱帯損傷」が多く、スポーツ時の接触プレーや交通事故などが原因で起こります。膝関節の靭帯損傷のパターンについての傾向を紹介します。
「前十字靱帯損傷」は、下腿(すねやふくらはぎなど膝関節から足首の関節までの部位)が前方・内側に向かった時は発症しやすいです。
「後十字靭帯損傷」は、下腿が後方に向かった時に発症しやすいです。
「内側側副靭帯損傷」は、膝が内側にはいったときに発症しやすいです。
「外側側副靭帯損傷」は、膝が外側にはいった時に発症しやすいです。

症状

靱帯が切れた時には、断裂音として「ブツッ」という音を聞くことがあります。多くは激痛が走り、動くことが困難になります。徐々に膝が腫れますが、数週間経過すると腫れも痛みも落ち着いてきます。
靱帯は膝の安定性を保つために非常に重要な役割を担っているので、適切な治療を受けていないと、痛みが残り、膝の不安感が現れてきます。
これは自然に改善することはほとんどありません。関節がグラつくことを放置しておくと、損傷していない靭帯や半月板、骨などへの負担が増し、将来的に関節変形に繋がる可能性があります。

靱帯損傷は治る?治療法について

靱帯損傷の治療は、損傷の部位や程度、半月板損傷の有無、不安定性の有無、求めるスポーツレベルなどによって総合的に判断されます。
前十字靭帯損傷については、スポーツ選手や若年層において「手術治療」を行うことが一般的です。しかし、高齢者や損傷が軽度の場合、日常生活に大きな支障がない場合などは「保存治療」で経過観察することがあります。

保存治療(手術以外の治療法)

保存治療(手術以外の治療法)装具やテーピングなどで膝の補助・補強を行い、膝の安定性をサポートする装具治療を行います。また、痛みに合わせて膝の屈伸運動やストレッチ、筋力トレーニングなどを行い、筋力と可動域の回復を目指すリハビリテーションを行います。
痛みが強い場合は、ブロック注射をしたり、膝に溜まった水を抜くことがあります。

手術治療

前十字靭帯損傷は高頻度で発症します。関節内は血の巡りがわるく、前十字靭帯への血流が乏しく自然治癒が望めないため、「靭帯再建術」と呼ばれる手術治療が行われます。
内側側副靱帯損傷も高頻度で発症する靭帯損傷です。基本的に手術治療ではなく保存治療をですが場合によっては切れてしまった靭帯を縫い合わせる「靭帯縫合術」と呼ばれる手術治療が行われることがあります。