ヘバーデン結節
親指から小指にかけて、第1関節が赤く腫れたり、変形して曲がったりする変形性関節症で、この病気を発見した英国の医師であるウィリアム・へバーデンの名にちなんで、「ヘバーデン結節」と呼ばれています。
原因
外傷に引き続いて起こる場合と、原因不明の場合があります。
裁縫や刺しゅう、農業など、普段からよく手仕事をしていた人に多いと言われています。また、女性は男性の約2倍以上の確率で発症することや、更年期以降の女性に多く発生することが分かっており、女性ホルモンであるエストロゲンの分泌量の減少が関与している可能性が推測されています。
遺伝性は証明されていませんが、母娘や姉妹間など、家族内で発症する例が散見されています。
症状
- 手指の第1関節に痛み、腫れ、変形、皮膚の赤みがある
- 第1関節の手の甲側に、関節を挟んで2つのコブ(結節)ができる
- 手を使うと痛み、指先に力が入りにくい
- 関節のそばに水ぶくれのようなものができる
- 爪が凸凹になったり、線が入ったりする
など
症状が出ては治まるというサイクルを繰り返し、放置していると10年ほどの期間をかけて関節や骨の変形に至ります。変形が進むと痛みは落ち着いてくることが多いのですが、動きが悪くなり、指がまっすぐでないことを自覚するようになります。
検査と診断
視診、触診などの診察と、レントゲン検査による画像診断を行い、関節の隙間が狭くなったり、関節が傷んだり、不要な骨ができる所見があれば、ヘバーデン結節と診断されます。
治療法
ヘバーデン結節は、個人差があるものの、数ヶ月~数年のうちに痛みが落ち着くことが多いので、保存療法が中心となります。痛みがある時には、関節が必要以上に動かないようサポーターやテーピングなどで固定し、アイシングを行います。痛みや腫れが激しい場合はブロック注射を検討します。
保存的療法で痛みが改善しない場合や、変形がひどくなり日常生活に支障をきたす場合には、手術を考慮します。手術には関節を固定する関節固定術、コブ結節を切除する関節形成術があります。
マレット変形
手指の第1関節が木槌のように曲がった状態になり、完全伸展できない変形を「マレット変形」と言います。
原因
マレット変形は突き指の一種で、ボールなどが指先に当たった時に第1関節にストレスが加わることで起こります。
マレット変形には2つのタイプがあり、指を伸ばす伸筋腱が切れた状態(腱断裂)と、第1関節内で伸筋腱がついている骨の一部が折れた状態(骨折を伴うもの)があります。
症状
- 第1関節が曲がったままになる
- 骨折を伴う場合は、痛みや腫れ、熱感がある
- 腱断裂の場合は痛みがないケースが多い
- 自分の意思では伸ばすことができない
など
マレット指を放置していると、第2関節が過度に伸展するスワンネック変形を起こすこともあります。
検査と診断
指がどのくらい伸ばすことできるかを確認します。さらに、腱断裂か骨折を伴うものかを見分けるため、また捻挫(靭帯損傷)との鑑別に、レントゲン検査あるいは超音波検査を行います。
治療法
腱断裂のマレット変形
(腱性マレット)
装具(スプリント)などを使用した保存治療を行い、腱の癒合を目指します。以降はリハビリテーションによって可動域訓練を行います。
腱断裂から時間が経過している場合は自然治癒がほぼ望めず、腱を末節骨に縫い付ける手術が必要な場合もあります。
骨折を伴うマレット変形
(骨性マレット)
装具による保存療法も可能ですが、手術治療だと治りやすいため選択される場合が多いです。
手術治療、保存治療の後には、第1関節を自分で自由に動かせるようにリハビリテーションを行うことが大切です。
母指CM関節症
「母指CM関節」とは、「親指の付け根の関節」のことで、可動域が広く柔軟に動きやすいため、物を「つかむ」「にぎる」「つまむ」という動作を可能にしています。
この関節の軟骨が摩耗することで変形性関節症を起こしたものを「母指CM関節症」と言い、親指に力がかかる動作をした際に、手首の親指の付け根付近に痛みが生じる疾患です。進行すると関節が腫れ、亜脱臼に伴う親指の変形が見られます。
原因
親指の使いすぎにより、母指CM関節の軟骨が摩耗することで発症します。また、加齢によって骨の新陳代謝が低下し、関節軟骨のすり減りが起こりやすくなることも原因の1つです。
特に更年期以降の女性に多く発生することから、女性ホルモンであるエストロゲンの分泌量減少により、腱や関節を柔軟に保つ作用が低下し、関節の炎症を起こしやすくなることも原因と考えられています。
症状
- 瓶のふたを開ける時、ドアの取手をつかむ時など、親指に力を入れる動作で痛みを感じる
- ホチキスやハサミを使う時に痛みがある
- 親指が開きにくく、親指の付け根あたりが膨らんでいる
- 親指の指先の関節が曲がり、付け根側の関節が反ったり、亜脱臼になったりする
など
初期はだるい痛みから始まり、軟骨のすり減りが進んでいくと、ズキッとした強い痛みが出るようになります。
検査と診断
問診、触診の上、レントゲン検査を行い診断します。
レントゲン検査では、似た症状を起こす腱鞘炎やリウマチとの鑑別、CM関節の亜脱臼の有無などを調べます。
治療法
母指CM関節症の治療は、親指の付け根をできる限り動かさず、休ませることが大切です。
軽症であれば、湿布を貼る薬物治療で痛みを和らげ、装具で固定する装具治療をするだけで、痛みや腫れなどの症状が改善するケースが多くあります。痛みや腫れが強く、仕事や日常生活に支障を来す場合は、ブロック注射を検討します。
保存治療でも痛みが改善しない時や、亜脱臼を伴う関節の変形、親指の付け根側の関節が反るなどの変形が起こっている時は、手術治療が適応されます。
キーンベック病
手首の関節のほぼ中心に「月状骨(げつじょうこつ)」という骨があります。この骨は軟骨に囲まれているので、元々血行が乏しく血流障害になりやすい骨です。
何らかの原因で月状骨への血行がより悪くなり、骨壊死(こつえし)して骨が潰れていくことで、痛みが出たり、動きが悪くなったりする疾患を「キーンベック病」と言います。
原因
原因はまだよく分かっていませんが、元々月状骨に負荷がかかりやすい関節の形をしている人で、ストレスがかかる行動を繰り返すことによって起こると推測されています。また、テニス、ゴルフ、バレーボールなど、手首に衝撃がかかるスポーツや、手を頻繁に使用する職業の青壮年の男性に多い傾向はありますが、明らかな外傷や職歴のない女性、高齢者にも見られることがあります。
症状
- 手首の真ん中あたりの痛み
- 手首の動きが悪くなる
- 手首の腫れ
- 握力低下
など
大工さんや調理師さんなど、手に力を入れる仕事の方が、このような症状がある時には、キーンベック病の可能性があります。
検査と診断
問診、触診による手関節の中心部分の痛みや腫れ、握力の低下などの症状の他、レントゲン検査を行うことで診断します。
初期段階ではレントゲン検査で分からないこともあり、その場合にはMRI検査を行います。また、リウマチで起こる関節炎と区別するため血液検査を追加することもあります。
治療法
初期の場合は、保存療法が適応されます。
手関節を固定し安静を保つ装具療法によって回復する場合もありますが、手を使う仕事をしている場合は、現実的に安静をとるのは困難で、症状が改善しないか、進行するケースが多く見られます。
症状が進行し月状骨の圧壊がある場合には、手術治療が選択されます。手術の方法には、月状骨の負担を軽減するための骨切り術や骨移植など、進行程度によって様々な方法があるので、最適なものが選択されます。
また、安静固定により関節の動く範囲が狭くなったり筋力低下が起こりますので、痛みと相談しながらリハビリテーションを行い、日常生活への復帰をめざします。
デュピュイトラン拘縮
「デュピュイトラン拘縮(こうしゅく)」は、手のひらから指にかけてしこりやこぶのようなものができ、進行すると皮膚のひきつれや指が伸ばしにくくなるなどの症状を起こす疾患です。
中指、薬指、小指に発症することが多く、通常痛みはありませんが、進行性で徐々に指が曲がっていき、最終的にはかぎ爪のような手になることがあります。
中年男性に多く、自然回復は見込めません。
原因
詳しい原因がまだよく分かっていない病気です。
45歳以上の男性に多く、血縁者に同じ病歴がある、糖尿病、アルコール依存症、てんかん、手に外傷がある方はリスクが高いと言われています。
また、この病気は50%の方が両手に発生しており、片手のみに発生する場合は、右手の方が左手より2倍多く発生するという報告もあります。
症状
- 手のひらにしこりやくぼみなどの結節が出る(初期)
- 手のひらの皮膚の上から太い束状ものが観察できる
- 少しずつ指が曲がりはじめて、関節の動きに制限が生じる(中期)
- 通常は痛みや腫れはないが、一時的に痛み腫れが出る(中期)
- 指が伸ばせなくなり「かぎ爪」のようになる(後期)
など
進行は一定ではなく予測が難しい病気で、突然症状が悪化する場合もあるので注意が必要です。
検査と診断
腱の断裂や癒着、腫瘍などの他の病気と区別する必要がありますが、診察により、手の平や指の拘縮索の有無、指の屈曲拘縮、関節可動域の確認等を行い診断します。また、手指の屈曲拘縮を確認するために、手のひらを下にして自然に軽く曲げた状態でテーブルに置き、上から圧力をかけるテーブルトップテストを行います。
手の平が平らになってテーブルにぴったり付けられる場合は屈曲拘縮がなく、手の平とテーブルの間に隙間がある場合には屈曲拘縮を起こしていると確認できます。
治療法
痛みはほとんどありませんが、進行すると指が曲がって伸ばすことが難しくなります。
自然に治る病気ではないので、病気の進行・症状を観察し、生活の質を低下させるような場合は治療を行います。
現在は薬物療法に使用する薬品の供給が途絶えているため手術療法を行います。
手術後は指をまっすぐに保つだけでなく、傷痕の形成による拘縮を防ぐ役目も果たす副子(添え木・シーネ)による固定を行います。また、リハビリテーションによって、指の曲げ伸ばし運動などで指が動く範囲をできるだけ回復させて、治療効果を高めていきます。
肘内障
「肘内障(ちゅうないしょう)」は、肘で一部の骨が亜脱臼を起こしている状態のことです。生後6ヶ月程度と2~6歳くらいまでの年齢に起こりやすく、男児より女児に、右手より左手に多い特徴があります。
原因
小さい子供の身体は発達途中のため、肘の関節部の靱帯や骨がしっかり固定されていません。そのため、「腕を引っ張られる」「転んで手をつく」「寝返りをうつ」など、ふとしたきっかけで亜脱臼を起こすことがあります。最近では超音波検査で、肘の骨と骨の間に靭帯と筋肉がはさまることが分かってきました。成長に伴って骨格が完成すると、これらの疾患は減っていきます。
症状
- 腕を動かさない
- 肩が外れたように見える
- 肘を痛がる
- 腕を痛がる
など
何らかの原因で肘の骨と骨の間に靭帯と筋肉が挟まってしまうため、少しでも肘を動かそうとすると痛みが走るので、突然腕を動かさなくなる場合が多いです。
検査と診断
特別な検査をすることはなく、問診、身体所見などから診断します。
しかし、しばらく時間が経っても泣き続ける、動かさない、腫れている、手の感覚がない、手の指の変色があるなど、骨折が疑われる場合には、レントゲン検査を行います。
治療法
治療は医師による徒手整復術が行われます。
整復術とは、骨折やはずれた関節などをもとの正常な状態に治すことで、特に手術や麻酔などをすることなく、数秒程度で終了することがほとんどです。
肘内障が治った後しばらくの間は再発しやすいため、発症後しばらくは注意深く子どもの様子を見ることも大切です。
有鉤骨鉤骨折
「有鉤骨鉤骨折(ゆうこうこつこうこっせつ)」は、野球やゴルフなどのスポーツや転倒などで、手の平の小指の付け根と手首の間にある「有鉤骨鉤」が骨折する疾患です。
原因
道具を握って行うスポーツでは、手のひらの小指側の肉球部分に道具がちょうど当たることから、野球のバッティングで手のひらに強い衝撃を受けた時や、ゴルフでダフった時などに、有鉤骨鉤に強いストレスが加わり、骨折に至ります。利き手とは逆の手に発生することが多いです。
症状
- 小指の付け根と手首の間に痛みが生じる
- 強く握り込むと指先に響くようなしびれが出る
- 小指・薬指を曲げると指が引っかかる感じがある
など
腫れを伴わないこともあるので、骨折に気づかない場合もあります。
骨が癒合しないと痛みは残り、放置し続けると小指を曲げる腱が切れてしまうこともあります。
検査と診断
通常の骨折の診断では、まずレントゲン検査が行われますが、有鉤骨鉤はレントゲン撮影で見えにくい部位にあるので、骨折していても捻挫や打撲の診断を受けて発見が遅れる可能性があります。
問診や診察で有鉤骨鉤骨折が疑われる場合は、CT検査を行います。
靱帯損傷は治る?治療法について
有鉤骨鉤にはたくさんの靭帯や筋肉がついており、常にストレスが加わる部位でもあるので、骨折が治りにくい場所です。しびれなどの神経症状の悪化や腱断裂のリスクもあるため、早めの治療が必要です。
骨折後すぐの診断で、ズレがほとんどない場合、ギプスなどで手首を安静に保つ保存療法を行います。2~3ヶ月の固定が必要となりますが、それでも完治しない場合は手術療法を行います。
また、この骨折は診断までに数ヶ月を要する場合もあり、分かった段階で保存治療による治癒が望めないことが多々あります。骨折部のずれが少ない場合には埋め込み式のネジで骨折部を固定する骨折観血的手術が行われます。骨折部のずれが多い場合、もしくは骨折を長期間放置されていた場合は、骨折部を固定しても骨は癒合しないので、骨折した骨の一部を切除する手術が行われます。
プロスポーツ選手でもこの手術を受け、そのほとんどが支障なく競技復帰しています。